



春がきた
空には ひばり
木には うぐいす
地には 菜の花
温(ぬく)もりのある空間を
蝶が 二つ 三つ
優美に舞っている
野道をゆけば
色とりどりの草花たちの
いぶきが 伸びやかだ
あっち こっちで
春をよろこぶ 歌が聞こえる
ああ、なんと
この地球(せかい)の麗しいことよ
ぽかぽか陽気に誘われ
ぶらり
散歩を楽しむ公園
あなたの輝く笑顔をみれば
どうにか
寒い冬を乗り越え よかったねと
ほっと 胸をなでおろす
わたしの心にも
やっとこ やっとこ
春がきた 春がきた
タンポポの花
驚いてしまったわ
アナタがもう
咲いていたなんて
周りは
枯れ草ばかりの道端に
へばりつくように
どうどうと 力強く
綿毛も
いつだって飛ばせる
準備をしているね
少女の頃
友だちがいなくて
ひとりぼっちでいたとき
空き地で
アナタをみつけて
じんわりと 心が
あったかくなったよ
アナタの花色 アナタの姿
わたし だいすき
いまでも変わらないよ
その気もち
アナタをみていると うれしくなる
いくじなしのわたしが
がんばれるような気がする
母の仕事
冷たい風受けながら
水仙 カンツバキが
健気(けなげ)に 咲いている
ユリカモメが群れ飛ぶ
水辺の散歩みち
行き交うひとに 会釈しながら
ときどき 立ち止まって
携帯を触るたび
待ち受け画面で
ワハハ ワハハと
あなたが笑っている
大きな口を開けて
いちにちに なんかい
その笑顔を
眺めることだろう
あなたの健康のこと
あなたを支えている方々のこと
あなたと一緒に居る友だちのこと
眺めては 祈り
祈っては 眺める
おもいのたけは
神の御座(みざ)へと
導かれていく
母の仕事は
祈ることだと
心得ている
新しい年に向かって
みずいろの空
ぽっかり浮かぶ白い雲
どっかりそびえる山々
木々たちは葉っぱを落としても
春への思いを秘めて
息をひそめている
凍(い)てつく寒さのなかを
シラサギが飛んでいく
大きな羽根をひろげて
ゆうゆうと
うしろをふりむかず
まっすぐ歩いていこう
時が良くても悪くても
語り続けていこう
主が
わたしにしてくださった
愛のみわざを
もう新しいことが
起こりはじめている
勇気とともに
だんだん
心が燃えてくる
ダイヤモンドはないけれど
久々に 我が家に帰った途端
ぐるり 部屋を見まわして
まんなかに チョコンと 鎮座したあなた
それから しゃくとり虫のように
部屋中を這いずり回り
畳の感触を確かめては
キャツ キャツと 笑い声をあげている
赤ん坊が 乳を飲みほし
満腹になったあと
あどけなく笑う その顔に似て
「何がそんなに うれしいのだろうねぇ」
軽口をたたいては 瞳を覗きこみ
なんかいも なんかいも
あなたの頬を 撫でている
あなたの喜ぶ笑顔
唯一無二の宝もの
わたしには ルビー サファイア
ダイヤモンドはないけれど
家族って いいなぁ
あなたの施設の秋まつり
人込みをかきわけ
ぬうっと 現れたのは
あなたの弟
「ぼくのこと おぼえているかな?」
(おう ひさしぶりだな)
そんな表情で ケラケラ笑って
応(こた)える あなた
「パパにそっくりだー」
「眉 目 鼻 そっくりだー」
弟の子どもたちが 飛んできて
ふたりをみくらべては
さかんにはやしたてる
「ほんとに そっくりね」と
嫁さんも頷き 笑い
父さんも母さんも 大笑い
笑いの渦は あなたの周りで
大きくなったり 小さくなったり
またまた 大きくなったり
ニコニコ顔のあなたと
それぞれに 握手する
家族って いいなぁ
やっぱり いいなぁ
恋花 いちりん 咲いたかな
キミを 迎えにいったとき
キミは 私を通りぬけ
ひとりの女性(ひと)に近づいて
じぶんの頬っぺたをつきだした
その女性(ひと)は
キミの頬っぺたに チューをした
声あげ 喜ぶキミがいた
「いってらっしゃい」
まじめな顔で
軽く 手を振る彼女
いままで 見たこともない光景に
あぜんとして とまどう私
「おふたりは仲がいいのですよ」
そういって 笑っている支援員さん
しゃべれないキミに
重いハンディキャップを抱える キミに
43歳の 遅い青春
ちいさな かわいい 恋の花
散らずに 咲いていておくれ
恋花 いちりん 咲いたかな
ほんわか いちりん 咲いたかな
優しい時間
あかあかと空を染めて
日が沈みかけている
ちらほら 街灯がつきはじめ
行き交う 車のヘッドライトが光る
酷暑で避けていた ウォーキング
ひさびさに 再開してみる
驚いた 草むらでは
しきりにコオロギが鳴いている
季節の移ろいのなんと早いことだろう
もう 秋がはじまっていたなんて
そう思ってみれば
セミの声も あまり聞かれない
ちょっぴり冷気を含んだ風も心地よい
飛行機の爆音がひびき
電車が近づく音がする
昨日の嵐がうそのような
いつもの夕暮れ
きょうもいちにち守られ
あなたのいちにちは どんなだったか
風邪はひいていないか
ひもじい思いをしてないか
感謝と せつなさと あしたへの願い
すべてを まぜあわせて
おもいの糸は 祈りを紡いでいく
この地上にも 私にも
ゆっくり ゆっくり
優しい時間が流れている
肝っ玉かあさん
地上の生涯が全てであるなら
わが子が 生きていく意味があるのだろうか
なんども悩み こころ折れる日々
地上の生涯が終わりではなく
そのさきに
神を信じる者が入る麗しい国
永遠(とこしえ)の国があると知った
そのときから
ちいさいけれど 希望がうまれた
世間体など気にしない
この世の基準など考えまい
ひとは 生かされているかぎり
いかなるひとであっても
尊い使命と役割があるのだからと
そんなふうに
わが子を思えるようになった
希望って だいじだなあー
希望があれば ひとは生きていける
泣き虫 悲劇のヒロインを自認
マイナス志向だった わたしが
気づいたら
「肝っ玉かあさん」 なんて
よばれたりして ビックリ
人生とは わからないものだ
「肝っ玉かあさん」
なんて力強いことばのひびき
ねがわくば ほんものの
「肝っ玉かあさん」になりたいものだ
ハッピーエンド
5年ぶりに予約した 歯科受診
障害者専門歯科は 車で片道
1時間もかかってしまう場所
遠くて 久々の受診
きっと
あなたは イヤに違いない
はたして どうなってしまうのやら
当日の天気予報 大雨に注意
小雨ちらつく 空見上げ
心は ちぢに乱れる
(主よ お守りください 全てをお委ねします)
祈りに祈って 出かけた
なんとか 病院に着くと
がらんとしている 待合室
キャンセル続出で すぐ呼ばれた
医者と看護師 総勢4人に
優しく 取り囲まれて
かわるがわるに かしずかれ
ほめられつつ 励まされつつ
受診と治療 めでたく 無事終了
終始 にこにこのあなただった
「とってもいい笑顔 写真を撮らせてね」 と 看護師さん
あなたが こんなにモテたこと 珍しいね
雨も たいして降ることはなく
不安に 押しつぶされそうだった日は
ハッピーエンド
ただクンのこと
ただクンのおかあさんに スーパーであった
ただクンが亡くなって5年 ひさびさに
おかあさんと 手をとりあって泣いた
ただクンとたっクン
いつも いっしょにいたね
散歩のときは 手をつなぎ
みんなより う〜んと 遅れて
のろのろ やっとこ 歩いていたふたり
食事をするときも 差し向かい
なんにもいわない いえない
似た者どうしのふたり
それでも 心は通じあっていた
ただクンが逝(い)なくなって しばらく
どうして ただクンが そばにいないのか
のみこめない たっクンは動揺していた
「大きな 赤ちゃんだった息子
あの子は 天使のような子だったよ
わたしね ひとりぼっちになってしまったの」
そういって また泣いた
ただクンのおかあさん
スーパーを出て 私もまた泣けた
やりきれない思いで 見上げる空に
雲が ゆっくりと流れて
そよ風が やさしく ほほをなでていく
桜並木はあなたへと続く道
延々続く桜並木を 通り抜けると
あなたが住む 施設(いえ)がある
あなたに逢うため 通いなれた道
桜が芽吹き 蕾が大きく膨らむと
もうすぐ満開になると 心楽しくなり
満開の桜のトンネルができると
メルヘンの世界に 迷い込んだ少女のように
きれいだきれいだと 声高にはしゃぎ
葉桜になってしまうと
あっけなく散ってしまったと 寂しさ募り
葉っぱが 全部落ちた頃は
厳しい冬がやってくると 気持ち引き締める
何年も何年も 繰り返され 見て来た光景
だけど いつしか わたしも
高齢者とよばれるようになってしまった
来年の桜 見ることは叶うだろうか
ちゃんと あなたに逢いに行けるのか
切ない思いは 浮き沈みする
「あなたがたのうちだれが、心配したからといって、
自分のいのちを少しでも延ばすことができますか」
みことばを噛みしめながら
桜並木を今日もゆく
ただひたすら あなたの笑顔を見るために
桜並木はあなたへと続く道
早春の風の中で
近くで青黒く光るのは 多度山
遠くでまだ雪を頂くは 御嶽山
平原を渡っていく風が
きょうは暖かい
草や木が萌えだして
若い緑がきれいだな
神に創られた
すべてのものが
うたっている
もうすぐ春ですよー
春が来ましたよー
喜びのうた声が
風に舞っている
同じ時を支えあう
自然界のハーモニー
なんだか新しい事が
始まりそうで
ワクワクしちゃう
振り返って
あなたを見れば
目をつぶり
風に吹かれて立っている
笑みを含んだ 口もとをして
キミの笑顔
キミは 人気者だそうな
にっこり笑う仕草が
かわいいのだという
「なんともいえず 癒されるのです」
キミを 世話する人が
耳元でささやいた
そういえば
子どもの施設を出る時も
「彼 どこに行っても愛されますよ
笑顔がありますから」
そういって
たくさんの方々が
握手してくれたね
そのことがうれしくて
照れた笑顔で みんなの周りを
ぐるぐる 廻っていた キミ
笑顔がいちばん
笑顔があれば
なんとかやっていける
キミは 人の輪を生む力
平和のカギを握っている
神は
最高の賜物を
キミに下さった
バトンタッチ(母が遺したことば)
この子は 人として不利な条件を
たくさん 持っているかもしれないね
でも
ふしあわせな子だと
決めつけてはいけないよ
障害を持っていること
イコール
ふしあわせではないのです
子育てで 肝心なのは
夫婦が 仲良くすること
互いに 協力しあうこと
パパとママの輪の中で
この子は この子なりの心で
自分が 愛されていることを知るでしょう
愛を知る子は しあわせなのです
母が遺した 子育ての極意
いまは わたしが 娘に伝えている
三代繋がる 「ことばのバトン」
あつき思いを込めて バトンタッチ
虹
降り続いた雨が
やっとあがって
山並みがくっきり
まじかに見える
思い悩む心を
もてあましながら歩く
田んぼみち
ふと
見上げた空に
大きな虹が架かっていた
壮大な宇宙(そら)のアート
神さまのみわざのプレゼント
思わず知らず
七色のきらめきを
人差し指でなぞってみる
ちっぽけなことで
クヨクヨするのは止めた
人生でどうしても必要なものは
わずかだから
いや
一つだから
心の中で何かが
プチンとはじけた
よどんでいたものが
どんどん清められていく
ふつふつと喜びが湧いてくる
かすかな希望が見えてきた
みちづれ
いっぽも 歩けないと思った道
のんびり 小さな歩幅だったけれど
振りかえみれば
ずいぶん 歩いてきたね
ぼくだって 友だちつくれたよ
ぼくだって いろんなことを学んだよ
ちかごろ
きみの 心の声が
ずんずん 迫ってくる
きみとの みちづれ
そう 悪くはないよ
むしろ
なかなか いいものだ
楽しみながら 歩いていこう
ゆっくりと この道を
きみと いっしょに 歩いた人生(みち)に
たくさんの 愛の花を 咲かそうよ
自分の命を生きている
ひとことも
ウソをつかない
ひとことも
グチをこぼさない
ひとことも
ヒトを非難しない
人が犯す舌の罪も
果てしない欲望も
強情な自己中心も
あなたにはない
これっぽっちもない
与えられた環境の中で
ただひたむきに
自分の命を生きている
あなたの姿 在り様が
時にはむなしく 時には激しく
私の心をえぐる
真理(みち)をはずれ
さまよう私を いつも
神の前に引き戻す
あなたに恥じないような
母でありたい
寝顔
夜の静寂(しじま)の中に
安らかな寝息が
リズミカルに漂い
あなたの意識は
誰も立ち入る事ができない
神秘の世界に入ってしまった
小部屋に射し込む
月明かりに照らされて
あなたが微かに笑っている
幸せそうに笑っている
一日の疲れ
煩わしいできごと
心の曇り
今日の嫌な垢(あか)を
さっぱり洗い流して
あなたの寝顔は絶品だ
あなたの寝顔を眺めていると
明日への勇気と希望が充ちてくる
きょういちにちをありがとう
イエスさまが ほほ笑んでいる
かあさんが 悲しい顔をすると
あなたも 悲しそうな顔
かあさんが イライラすると
あなたも イライラ落ち着かない
かあさんが 笑顔になると
あなたも とびきりの笑顔
かあさんと武雄は あわせ鏡
そして
あなたの 傍(かたわ)らには イエスさま
いつも 黙って
イエスさまが ほほ笑んでいる
きみが居て
きみが 待っていると思うと
病気など しておれぬ
風邪も すぐに 治してしまう
きみが 待っていると思うと
父さんと ケンカしていても
平和条約成立で 仲直り
きみが 待っていると思うと
あなたの 好きな食べ物 飲み物
たくさんたくさん 用意して
きみが 待っていると思うと
ドキドキ 胸が高鳴って
最高の笑顔で 会いに行く
きみが 居て
わたしの 人生は 廻っている
きみって きみって すごいね
もうすぐあなたの誕生日
ミーン ミン ミン ミン
ミンミンゼミが 大声で 生命を鼓舞する
暑い 暑い 真夏日
片田舎の 小さな病院で
あなたは 生まれた
3日間の 生みの苦しみは
かあさんとあなたの
いのちがけの 共同作業だったね
ポツチャリした かわいい男の子
あなたを 腕(かいな)に抱いた時
たまらなく いとおしく思ったよ
あれから42年 もうすぐ
あなたの誕生日が 巡って来る
いくたびか 死線を越えて
なお 生かされて在る いのち
髭面(ひげづら) ぼちぼち白髪(しらが)頭
すっかり おじさんになってしまったけれど
あなたの 無垢な瞳と心は 幼子のまま
あなたの 母親でなかったら
もう少し ましな人生が あったかもと
何度 枕を 濡らしたことだろう
今 あなたに 感謝を届けたい
かあさんの子供に 生まれてくれて ありがとう
ほんとに ほんとに ありがとう
顔
施設の門が見えてくると
へらへら笑っていた あなたの顔が
一瞬に曇る
炎に溶かされていく ビニールのように
いびつになっていく
話せない あなたが
涙が こぼれそうな顔で
精一杯 心を表現している
「帰りたくないね
かあさんたちと一緒に住みたいね」
いつものことばを 投げかけながら
どうしようもない やるせなさが漂う
駐車場に ブレーキ音が響く
「また会いに来るからね
また迎えに来るからね」
悲しみを 振り切るように
必死で呼びかける
車のドアが 静かに開かれると
あなたは 己の人生を 悟った顔をして
おもむろに降り
建物の中に 消えていく
いつまでたっても 慣れることはない
日々 あなたの顔を 思い出すたび
突き刺さる 悲しみが疼(うず)く
自分の無力さが 身に沁みる
神にすべてを委ねて 祈ることを知った
今は恵みの時、今は救いの日です
神なんていない うそだ
しゃべれない あの子が
どうして ひどい病気になったのか
誰もいない 駅のホーム
天を仰ぎ 号泣した
今は恵みの時 、今は救いの日です
どこからともなく 迫ってくることば
波のように 押し寄せてくる
不可思議なことば
いったい 何のことだろう
わけがわからぬ 自問自答の中で
いつのまにか 心は凪(な)いでいた
神さま お願いです あの子を 助けてください
神さま お願いです あの子を 癒してください
一心に 一心に 初めて
祈る 行為をしていた
つたない祈りを 神は聴き入れられた
ほどなくして バプテスマを受けた わたし
ずいぶん 経ってから 聖書の中に
あの時の ことばをみつけた
今は恵みの時、今は救いの日です
一瞬にして解った みことばの真実 神の力
神は 生きておられる
いつでも 語っておられる
野の花のように
ふと気付いてみると
君は もう おとな
とっくに背丈は
とおさんとかあさんを 追い越している
思えば 白いワイシャツに
ネクタイを キリリと 締めて
背広姿だって ステキかも しれないね
それなのに
母さんの 瞳に写るのは
いつだって トレーナー姿
青空のもと 風と戯れながら
いちめんの 菜の花畑を
おもいっきり 両手を広げ
歓声上げて 走りまわる 君
受験戦争も グルメも
流行の ファッションも
リッチな 世界旅行も
全く 無縁の世界で
生まれたばかりの
赤ん坊のような いのちが
そこで きらきら 輝いている
人間の 欲望なんて
あさましく むなしい
神さまの 御手の中で 生かされて
君のいのちが 輝いていること
そのことがいちばん 嬉しいことだから
野の花のように
野の花のように
あるがままに 生きていきたい
さんぽみち
まっかに染まった あかね空
そぞろ歩きの さんぽみち
すず風が 優しく頬を 撫でていく
あなたは 眼を細め 笑って歩く
葉っぱ 引っ張って バリ バリ
石ころ 投げて コロ コロ
木切れ 拾って ユラ ユラ
神が創られた 麗しい世界で
無心に遊ぶ あなたの瞳の 安らかさ
ふと われにかえって
ほほえみかける あなたよ
暮れなずむ 夕暮れは 心休まるね
あしたも 晴れだ
さあー走って お家に 帰りましょう
かけっこ ヨ〜イ、ドン
仲間
つらい育児で 身も心も すりへっていた頃
同じような 障害のある子を持つ
二人の仲間ができた
驚きと興奮が 私を包んだ
私たちは トリオで 徒党を組み
それぞれの子を連れて
レストラン スーパー 公園
どこへでも出かけた
悩み 苦労 不安 恐れ
涙を流して 互いに分かちあった
でも 最後には
全てが 笑い話に変化していた
涙をぬぐって 腹をかかえ 笑いあった
帰りには きまって
生きる力と 勇気が満ちていた
三人で共有した 時間の重さ すばらしさ
仲間がいたから 生きてこられた
試練とともに 脱出の道も備えてくださった
神の愛の 確かさを思う
モットー
わが子の障害を 受け止めきれずに
相談所の トビラを叩いたとき
臨床心理士が 笑顔で言った
おかあさん
元気 根気 のん気 に
希望のエッセンスを
一滴 二滴 振りかけて
それをモットーとして
生きていきましょう
ムリ ムリ ムリ
心配性で小心者 根気などまるでない
希望持てないから ここにきたの
心の中で否定して 強くつぶやいた
それでも それから
わたしのクチグセは
元気 根気 のん気
希望のエッセンス
と なった
言い続けていると
それらのことばは ほんとうに
わたしの 子育てのモットーとなった
いちねんじゅう クリスマス
あなたが好きなこと
クリスマスソングを 聴くこと
春夏秋冬 いちねんじゅう 聴いている
赤鼻のトナカイ は
のりのりで アーアーと歌っている
ジングルベル は
体をゆらして 楽しげだ
きよしこの夜 は
感きわまって 涙こぼれそう
ハレルヤコーラス は
神妙な顔つきで 固まっている
あなたは 何時でも どこでも
クリスマスソングを 聴くのが とっても大好き
父さんが作った オリジナルテープは
今にも 擦り切れてしまいそう
考えてみると
クリスチャンは いちねんじゅう
クリスマスを 賛美しないとね
救い主の誕生を 日々喜び
感謝を 続けないといけないね
わたしも あなたと
いっしょに 歌おう
罪にまみれた わたしの人生を
新生させてくださった 神の御子に
思いをよせて 声高らかに
神のわざが現れるためです
因縁 因果 前世の罪
かわいそうな親子だね
人々が眉ひそめ ウワサしているようで
いつもオドオド 下を向き生きていた
この子さえいなければ
どす黒い地底から 湧きあがる 悪魔のささやき
息をすることさえ 辛く苦しかった
そんな時
イエスさまに出会った
この人が罪を犯したのでもなく
両親でもありません
神のわざがこの人に現れるためです
みことばにふれた途端
ひとすじの光が 鋭い矢となって
私の全身をつらぬいた
とめどもなく流れおちる涙 涙 涙
呪縛のクサリからの 解放
自由な心から 希望が生まれ
感謝が生まれ 平安が生まれた
生きることが 楽しくなった
我が子が 愛おしくなった
神のわざが この身に現れたのです
ぼくのおにいちゃんの詩は、次男の作(当時8才)です。この詩は、プロの音楽家がメロデイーをつけ、コンサートで発表してくださいました。
ぼくのおにいちゃん
しゃべれないおにいちゃん
いつもひとりぼっちであそんでいる
そんなおにいちゃんさびしそう
友だちできたらいいのになあ
はやくしゃべれるようになってね
ぼくはいつでもそう思っている
おにいちゃんは心の中で
どんなことを思うのだろう
何がしゃべりたいのだろう
それがわかったらいいのになあ
おにいちゃんの心の中を
そっとのぞいて見たい
おにいちゃんができないこと
ぼくにできることがあったら
なんでもやってあげたい
体のデッカイおにいちゃん
いたずらばっかりおにいちゃん
世界じゅうでたったひとりの
ぼくのおにいちゃん
やっぱりぼくはだいすきだ
武雄へ
ことばを話せない
もどかしさを目に秘め
何度も何度も頭を下げ
手を合わせこいねがう武雄よ
わかっているよ
君の心の中でことばが
おしくらまんじゅうをしてるから
ひとことおしゃべりほしいから
かあさんは知らないふりをしているだけ
タケオタケオ良い名前
おじいちゃんがつけてくれた名前
君は自然児のように
無欲に今日も生きている
かあさん死んでしまったら
君の心の叫びを
誰が聞いてくれるだろう
そんなことを
考える日もあるけれど
今日いちにちの幸せを感謝して
明日への恵みを祈ろうね
いたずら天使
物事の判断をできない、長男との生活(現在は施設に入所)は、家族にとって、全てにおいて壮絶な闘いの日々でした。
いたずら天使
夕餉の仕度 している傍で
ウロウロ いたずら物色ちゅうの君
その時 突然 電話のベル
受話器を置いて もどってみると
君がつくった
不思議な料理 できている
手を振り上げて みたものの
笑顔を見ると 叱れない
弟の教科書 破っても
妹の人形 壊しても
父さんのカセット めちゃくちゃしても
つぶらな瞳が すましている
大声で 怒鳴ってみたが
やはり君を 憎めない
いたずらは
君の生きる力 と 証しだね
君を愛すということは
君のありのままを受け入れること
君はわが家の いたずら天使
ねえかあさん
次男(現在30代)が小学校に上がる頃、私に語りかけて言ったことばを集めて、詩にしました。
「たっくん」という呼び名は、我が家での長男、武雄君の愛称。
ねえかあさん
たっくん どうしてお話できないの
どうしてもなおらない頭の病気なの
えらいお医者さまでもだめかな
ねえかあさん
たっくんのユメみたよ
にこにこ笑ってしゃべっていたよ
ぼくうれしくて
わんわん泣いたら ユメさめた
ねえかあさん
神さまが人間をつくったの
神さまだったら
たっくんの頭 なおしてくれるかな
ねえかあさん
ぼくお祈りするよ
神さまにお祈りするよ
たっくんに ことばをあげてくださいって
あなたへのメッセージ
長男に重い障害があると判明した時、私には絶望だけがありました。
「苦労は、僕も共に背負っていくよ」と、言ってくれた夫のひとことが、私に生きる勇気を与えてくれました。神が、引き合わせてくださった生涯のパートナーを感謝しています。
この子には 僕の血と君の血が半分ずつ流れているんだ
どこか僕の仕草に似ていて どこか君の表情に似ている
こんな可愛い子 世界中捜したっていないさ
苦労は仲良く分けて 背負っていこうな
長い夜 手を取り合って泣けるだけ泣いた
あれから何年経ったのだろう
めまぐるしく過ぎていく日々の中で
静かなひとときを憩う あなたとわたし
この子がいて良かった
心から そう思える日のために
どこまでも 支えあっていきましょう
あなた
武雄とともに
暮色に包まれた 誰もいない公園で
ブランコに乗る武雄
大きな身体をゆすりながら
無邪気な笑顔が舞いあがる
あなたと生きた幾年月
いろんな日々があったけど
生きていてよかったね
生きるってことは傷つくこと
生きるってことは勇気を持つこと
生きるってことは感動すること
生きるってことは誰かを愛すること
みどり児の澄んだ瞳そのままで
母さんに教えてくれた
あなたを力いっぱい愛したい
母さんの命を燃やして愛したい
生きることの尊さを
生きることの確かさを
かみしめながら少しずつ
あなたとともに歩いていこうね
オレンジ色の雲をみつめて
微笑みかわすふたりです
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